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2020/05/29

【KAORIUM JOURNAL #03】香りと言葉が創出する新しいイノベーションの土壌「新しい時代の美」とは?

「香りと言葉」が導く超感覚を追求する KAORIUM JOURNAL。セントマティック代表 栗栖 俊治が、香り × 言葉がもたらす未来について様々なスペシャリストと対談しその様子をお届けします。
※#03はオンラインによる対談となります。

緊急事態宣言により働き方や消費行動の変革が求められました。前例のないインパクトに今後世界はどう変わっていくのか。そんな中で、自分自身のライフスタイルや価値観等を見つめ直す機会が増えたという声が増えてきました。
視覚や聴覚よりも感性にストレートに直結し、本当に自分が求めているものを引き出せると言われる嗅覚。そんな嗅覚に目をつけていたセントマティックが心豊かな社会を目指して開発した「香り」と「言葉」のプロジェクトKAORIUM。KAORIUMが欧米ではなく、なぜ日本でスタートしたのか?それには「香り」と「言葉」を扱ってきた日本独自の特性がありました。

計算されたマーケティングだけではビジネスがスケールしないと言われる時代に、日本から新しい市場を創る可能性があるKAORIUMの価値について、3,000人を超える世界のリーダーにインタビューをしてきた実績を持つForbes JAPAN(フォーブス ジャパン)副編集長の谷本 有香に、お話を伺っていきます。

「KAORIUM(カオリウム)」とは

五感の中でも最も未知な領域であり、新たな発見や市場創出が期待されている「嗅覚」。そのポテンシャルを追求するため、「香り」と「言葉」を紐づけ相互に変換するAI型システム「KAORIUM(カオリウム)」が開発されました。香りから言葉を連想し、言葉から香りを想像することは、脳の活性化に繋がるだけでなく、私たちのまだ見ぬ感性に気づかせてくれます。
そんなKAORIUM体験は、感性教育、飲食体験、購買体験など様々な分野に新しいビジネスチャンスを生み、そして人々の感受性に働きかけ、日々をより豊かなものにする可能性があります。

テクノロジー・サイエンス・アートのトライアングルが産みだす新しいマーケット

栗栖 前回のKAORIUM JOURNAL( 【KAORIUM JOURNAL #02】「みんながアーティストの時代」香りを言語化することによって高まる感受性と表現力 )で対談させていただいたKiNGさんから、KAORIUMを社会やビジネストレンドの中で見ていくなら谷本さんの視点がすごくいいはずだとご紹介いただいたのが最初の出会いでしたね。KAORIUMはすごく面白い体験でポテンシャルを感じるけれども、そもそもどういう価値を世の中に提供できるのかというところを模索している時期でした。

谷本 私は、職業柄、新しい起業家の取り組みや新規事業などを拝見することが多いのですが、結構長い間感じていたのは、どれもなんとなく既視感や、何かどこかから持ってきたように思える感覚があったんですよね。計算されたマーケティングによって出来上がっているものが多くて、だからこそ人が魅力を感じなかったり新しいマーケットが創造できないところがあると思うんです。じゃあ今後、我々日本人が向かっていかなければならない方向として、どう言った新しい形があるのかなってずっと考えていました。

栗栖 日本国内だと新しそうに見えても、すでに他国でやっていたり、既視感があるものが多いですよね。セントマティックでは、今まで見たことのないようなワクワクするものをどうやって作れるのかなと模索しながら進めてきました。NTTドコモでの事業開発をしていた時は、市場規模やニーズをふまえ、何年で黒字になるかを逆算してビジネスモデルを組み立ててから社内会議を通して開発し、ローンチする、という流れだったのですが、今回はビジネス視点からのスタートでなく、香りのプロなどもあえて入れずに、まずは素人の立場で香りと触れ合ってみて、どうしたら面白いか、ワクワクする体験を作れるのかを大事にここまで一気に突っ走ってきました。

谷本 ワクワクしながら、そう言った感覚で新しい価値を生み出すというのは、本当の姿だと思います。
日本はテクノロジーが他の国に比べ強い国であったけれど、世界のキャッチアップや進化の速さによって、環境も変わってきています。今後私たちがやらなければいけないのは、テクノロジー、サイエンス、そしてセンスや感性を含んだアート、つまり、このトライアングルを上手く使うことによって生まれるマーケットを作っていくことだと思っています。ただ、このトライアングルのバランスというのは非常に難しくて、どこか一つが強くなりすぎてしまうんです。セントマティックは、この三角形のバランスがうまくいっている例だと思います。これが成功できると、新しいマーケットが生まれて、今後の価値の作り方のプロトタイプになるような気がしています。日本からもすごく素敵な風を世界に送ることができるかもしれません。そういった意味でも、ものすごく期待している部分ですね。また、私自身がたくさんのベンチャー企業とか新規事業を拝見していく中で、今まで香りをやってきている人たちってほとんどいなかったんですよね。だから、ようやく出てきたという感覚もありました。

栗栖 ありがとうございます。テクノロジーとマーケティングロジックだけで今までにない面白いものを生み出そうとすることには限界があるように感じています。谷本さんのように、エッジの効いた新しい価値観や、今まで眠っていたような価値観に気づかせてくれる俯瞰した視点を持っている方々からインサイトをいただくことによって、新しいトレンドを共創していくことも、セントマティックでやりたいことの一つなんです。

日本的な香りとの向き合い方

谷本 日本人って香りに関しては今までそこまでセンシティブに生きてこなかったような気がするんです。もちろん「香道」という道があり、文化の中には深く根付いているはずにも関わらず、他国に比べ、そこまで関心が向かっていなかったような気がするんですよね。

栗栖 近代史以降におこった欧米諸国での香りへの関心の高まりが、日本に波及しなかったことが主な理由と考えています。欧州ではギリシャ時代からプラトンなどの哲学者が五感に関する様々な思考をしていて、17世紀ごろまでは視覚が最上位という扱いだった。17世紀あたりから感覚に対する見直しが始まり、18世紀にはジャン=ジャック・ルソーが「嗅覚は想像力の感覚である」という言葉を残しています。
そのあとアールヌーヴォーという新しい芸術運動が勃興し、最新の芸術スタイルの一つとして香水はヨーロッパで受け入れられました。こうしてヨーロッパでは家庭や社会におけるコミュニケーションの中で、幼少期から香りに対する感性を高められる土壌が醸成されて、フレグランス市場が確立されていった、と言われています。
一方で、日本に香水が輸入されてきたのは鹿鳴館時代なのですが、そのときにアールヌーヴォーのような文化的バックグラウンドが薄く、一部の消費者を除いて大半の消費者がついていけなかった、と言われています。そこからやっと2000年代に入ってきて、ルームフレグランスだったり、柔軟剤に香りをつけたりと、やっと日本の市場自体が香りに対して受容性が高まってきたのだろう、と考えています。
そこに、香りと言葉を繋げるKAORIUMが入っていくと、香りの感じ方は自分の好きなように、またこういう風に感じれたらいいんだっていうのを教えてあげられるきっかけになるんじゃないかなって思っているんです。

谷本 より香りを楽しむような時代に突入していることの良さを活かしつつ、もう一方で「日本的な香りとの向き合い方」を大事にするべきなのかなとも思うんですよね。
例えば、香水に関しては自分の嗜好のために選ぶものだったりする。一方で、日本でお香を焚くのは誰のためかというと、お客様のためだったりしますよね。床の間もそうで、「今日いらっしゃる方がどなたなのか」というのを考えて、活けるお花や、掛け軸を決めるわけですよね。反対に、欧米では自分が好きな絵画を常においておく。日本特有の、誰かのためにある香りの選び方、その感覚は非常に重要な気がしています。

栗栖 自分がどう感じるかというところに加え、いらっしゃった方に対してのおもてなしとしてどう香りを設計するかというところは重要ですね。

谷本 自分をよく見せようとか、何か汚いものを隠すために使うのではなく、何かを共有、共鳴するためであったり、また、何かに思いを馳せる香りというのも日本で発祥したものだと思うんです。八百万の神ともいいますし、自然を崇め自然からインスピレーションを得るというのは、日本人の特異たる部分で、香道もそうですよね。香木が森羅万象を経て、雨風にさらされて、どういった経緯で今の香りになっているのか、ということに思いを馳せること。香りの味わい方に奥深さや時間的、空間的な拡張が見られるのは日本特有なもので、部屋の「空気」を物理的ではなく、情報的に変えるために香りを使うといった感覚値は、西洋と大きく異なっているように思えます。そこの部分は大事にしていかなければならないし、そこに思いを馳せられるような仕掛けを我々は作っていくといいのかもしれません。

栗栖 すごくいいインサイトをいただいたなと思います。実はセントマティックの提供するコンセプトを悩んでた時期があって、そのときは「センス良く生きる」というフレーズだけでまとめていたんです。谷本さんがおっしゃった、自分が楽しむだけじゃなくて、周りの方々をきちんともてなす、またより深く自分の中で香りを味わう、そんな香りを使いこなせるような暮らしを提案していきたいなって思います。

視覚聴覚を使い過ぎの現代、嗅覚による新しいイノベーションを

谷本 先日、数百年を超える老舗企業の副社長さんの話をお伺いした際、「いつもどのように心を整えられてるんですか」と質問したんです。彼がおっしゃったのは、書道をしていて、墨の匂いを嗅いでいると心が整うのだそうです。筆で文字を書くことよりも「墨の匂いを嗅ぐときにより心が整う」って、すごく象徴的だと思ったんですよね。香りを嗅いだ瞬間に感性と結びつく、「香りを通す」状態。香りのデバイスの可能性ってまさにそういうところにもあるんだなと確信したような取材だったんです。

栗栖 とても面白いですね。

谷本 コロナによるオンライン生活になって感じたんですが、今までずっと過密なスケジュールで、過緊張な状態だったんです。忙しく働かれている方には多いと思うんですけど、そういう時は、深呼吸が足りていない、呼吸が浅いんです。だから、香りを嗅いで匂いを含むという行為が必要になるのではと。深呼吸と同様に過緊張がなくなると言われていますよね。まさに「整える」感覚。

栗栖 仕事に追われていると、「視覚」・「聴覚」に入る情報でいっぱいで、張り詰めて凍りつくような状態になっているんじゃないかな。そこに、香りを使って全身のモードをチェンジさせるっていうことが、この過緊張を解き改めて人間らしさみたいなところに気づけるのかもしれない。

谷本 また、オンラインの状態にもすごく慣れてきた昨今、YouTuberやinstagrammerの方々が、画像や映像など、視覚的な部分で発信が上手な人が勝っているように思えますが、ただ、よくよく見てみると、雰囲気であったり、空気感を上手く演出している方も多いんです。ただ、それは言語化しにくい。一般的な方も、いわゆる視覚的な演出ではない、それらの「雰囲気」「空気感」を演出できるようなデバイスであったりするといいですよね。それは、オフラインではまさに香水といった香りだったり、その人の持つ間合いのような人間的な魅力だったりしたと思うんです。そういう今まで言語化できてなかった印象や感情に繋がる部分を醸成するためのデバイスがまだなかったと思うんですよね。

栗栖 そうですね。特にオンラインになるとどうしても視覚と聴覚だけになってしまっていて、やっぱり我々は体感的に物足りない、より人間のつながりをリアルにしていくことが求められますね。シリコンバレーにいる時に気づいたことがあって、視覚向け・聴覚向けの技術は人間が知覚できないところまで高精細になっており、これ以上進化しても意味をもたらさないところまできている。
より人間らしい繋がりだとか体感を視覚・聴覚ではない感覚によるイノベーションが必要。その中で、やっぱり嗅覚とか味覚とか、味覚も嗅覚の一部に近く、フレーバーとかは嗅覚で感じてるので、こここそ、やるべきなんじゃないかなって、谷本さんのお話を聞いてさらに確信しました。

日本80年周期のゲームチェンジ!新たな時代で求められる「内省」

栗栖 日本では約80年周期で大きなゲームチェンジが起こっていると聞いたことがあります。80年前は太平洋戦争、その前の80年前も幕末から明治に。その前は寛政の改革、など。その時期には社会情勢の変動から人生観や価値観が大きく変わってきた、と言われています。
2020年の今、コロナ蔓延によって働き方をはじめ価値観が変動し始めており、再びゲームチェンジが起こるかもしれない。今後は従来のようなステレオタイプ的な価値観、例えば、お金持ちになるとか、広い家に暮らす、とかではない、自分自身にとっての幸福とはなにか、という一人一人にとっての価値の模索が始まるんじゃないかな。その中で、KAORIUM体験は、香りを通して自分自身にしかない感じ方を知り、それが自分自身の価値観や人生観、幸福感に気づけるような「内省」をするきっかけとしての役割を果たせるとよいなと思っています。

谷本 コロナとともに生きていく時代の中において、自分自身に向き合う「内省」ってすごく重要なキーワードになりそうですよね。自分自身に向き合うというのは、自分自身の幸福感を最大化させることにも繋がる。勿論、今まで多くの社会人が「内省」というものをしてきたと思うのですが、でもそれって社会との接点としてやってきただけだと思うんですよね。「社会人」として自分はどうなのか?と。本当の意味で自分自身という個の中で完結できる「内省」をしてきたかというと、おそらくそれはできていなかったような気がします。

栗栖 日本の働き方で忙しく働いていると、なかなか余裕を持つことは難しいですよね。社会に出る時は、多くの人が、何かしらの価値を世の中に提供したいと夢を抱いていると思うんです。だけど、成果を出すことや出世することに追われてしまい、最初に抱いていた夢は埋もれてしまう。シリコンバレーにいた時、ヨセミテ国立公園がすごく大好きだったんです。山の中を一人で歩いて、キャンプしながら、「これからどうやって生きていこう、自分の本当に好きなことってなんなんだろう」とずっと考えていて、これから何十年も生きた時に、本当に何かをやりきった、自分の生き方に満足している、と心底思える人生を送りたいな、と思ったんです。それは五感を使い自然を感じることを通して、本当に求める何かに気づくことができたんだと思います。

谷本 コロナの状況になって、「内省」がしやすい環境ですよね。何かの力を借りながら自分自身に向き合う際、例えば、音楽だったり、暗闇といった視覚への環境だったりも大切ですが、大脳辺縁系にすぐに直結する嗅覚を使う。それによって瞑想状態になる。この「嗅覚」を使うということが最も簡単に精神の一番深いところまでいきやすいと思うんですよね。

栗栖 そうですね。こういったタイミングで香りを感じたときにすごく自分の中と向き合いやすくなるようなきっかけとなるように、KAORIUM体験を発信していきたいなって思います。

谷本 香りの効用として、社会を明るくすることだったり、社会を元気づけることができると思うんですよね。まさに香りってムーブメントを起こせると思う。
今までは個人的なものだった香りが大衆化とか民衆化することってとても現実的だし、それが大きな力を醸成することにも繋がるように思います。香りをたくさんの方達に共感・共鳴してもらう何かのイベントやワークショップなどの場を提供してみても面白いのかもしれませんね。

香り体験は焚き火体験。他者とのつながり・多様性への理解に

栗栖 香りってすごくプライベートなものである一方で、空間を共有するものでもありますよね。同じ空間で同じ香りをシェアして、その香りに対して抱いた感覚を理解し合えたら、すごく心の距離が縮まり信頼関係が築けると思う。

谷本 焚き火を囲んだ時のような感覚に似ていますね。共に焚き火を囲んでいる人たちとの何かを共有している感覚、瞑想感、そういった状況が現代においてとても大切だと思うんです。目に見えないので共有しづらい感覚ではありますが、それでこそ共有した時に、つながりや、互いの理解が強く生まれますよね。サウナが流行っていたのもそんな背景も有るような気がします。一体感とともに、自己との対面に優れるというか。

栗栖 KAORIUM体験では、香りと自分の中にある感性を直感的に紐づけられる体験感覚がありまして、これが自分の内面に触れるトリガーになると思います。香りをトリガーにして、自分の内面を見つめることもできるし、他者の内面に触れることもできる。
そもそも香りは、一人一人の多様性、ダイバーシティとの親和性が高いというところもあります。人間が知覚できる香りはDNAレベルで嗅覚受容体が一人一人異なるため、生まれながらにして香りの感覚が人によって違う。またその香りをどう感じるかはその人のそれまでの人生経験によります。つまり生まれながらにして持ってきたものと、その人が生まれた後に培ってきた価値観がある。これってダイバーシティそのものですよね。香りをきっかけに「一人一人がそもそも違うよね、その違いを楽しもうよ」っていう感覚が得られるんじゃないかなって思うんですよね。
香りで導かれる体験が、自分自身のさらなる理解につながり、そして他者との繋がりをより豊かにしていけたらいいですよね。

アートは即物的には学べない。本当に得られる感性を鍛えるための手段

谷本 KAORIUMって本当に素敵な使い方がいっぱいありそうですね。我々のような新しいことを生み出していかなければならない編集会議の場などに、香りがあると、インスピレーションや、インティマシー(親密さ)を上げていくのに有効的なんじゃないかな、一回試してみたいですね。

栗栖 最近は、特にビジネスで活躍されている方々の中で、アートを学ぶということが注目されていますよね。ただ見るだけではなくてそれをどう感じるのか、自分の感性を鋭くするためのトレーニングとして。

谷本 おっしゃる通りで、私自身様々なリーダーの方にお会いする機会が多いのですが、リーダーの方々は最近アートをすごく勉強されています。
ただ教える側や題材になっているものにも問題があるかもしれないのですが、本当に彼らが求めている感性のようなものを得ることはできていないと思っているんです。感性って、即物的に、もしくはマニュアル的に学ぶものではないんですよ。そうして学んでしまうと、この作家さんがコレクトですよという感じで、正解主義的に全員がその作家さんの絵を買って飾ってしまう。

栗栖 自分が何を良いと思うかは、それって自分自身の価値観であり感性ですよね。誰かにこれが良いんだよって言われたときに、なんの疑問も持たず「そうだね」ってなってしまう人は多いように思います。もちろん、本当に自分が良いと思っているなら問題ないのですが。

谷本 感性が豊かになったり輝いたりするのは、例えば散歩中に咲いている野花に思いを馳せたり、そういうところにあるような気がします。

栗栖 咲いてる花を美しいと思うことや、雨が降ったときに立ち上がってくる雨の匂いを感じること、日々の中で直感的に「いいな」と感じられるものが、本当の意味で自分の感性やセンサーを鍛えるのだと思いますね。その中で日々の中で直感的に感じられる、例えば、絵画とかの鑑賞と比べても、原始的かつ本能的な感覚に基づく感性と言ったところで、やっぱり嗅覚って相性が良いのかなって思います。またKAORIUM体験は香りと言葉を紐づけるのですが、言葉もその人の感じ方のセンサーの一部で、持つ言葉が少なければ、いろんな事象がその少ない言葉のみに集約され、ボキャブラリーが増えるとその感じ方や感性の鋭さが高まるのだと思っています。

谷本 やっぱり香りの表し方って、日本独特なような気がするんですよね。面白いって思うのが、香道では、「清々しい僧侶のような匂い」と表現したりする。それってものすごく奥深い表し方だなって思うんですね。「僧侶」っていう存在がすごく荘厳であって汚れがなくて輝かしくて、そういう様々な要素を含んだ、しかもそれに対して「清々しい」という形容詞がつくっていうね、なんかその最上級の最上級みたいな。とても日本人らしいと思います。だって、正解は一つではないけれど、日本人の頭にこんな感じの香りかな、って浮かぶような気がしませんか?こういった言葉を使えるような機会を、香りを使って増やしていくことは、情緒や言語能力など、様々な能力の扉を開けていくことに繋がりそうだなーっていつも思っています。また「清々しい僧侶ってどういう匂い」って何だろうと思いを馳せる、そのプロセスもすごく重要なアプローチになります。

繊細な日本語があってこそ生まれたKAORIUM。香りと言葉が導く「新しい時代の美」

谷本 日本語ってとても独特な言葉ですよね。私は文章書くときに気をつけているポイントがあって、それは男性が自分をなんて呼んでいるか、ということなんです。
「僕」、「私」、「俺」…なんて言っているかによって文体を変えています。なぜかというと、例えばものすごく地位のある方が「僕」っていうのと「私」っていうのと「俺」っていうのでは、印象も見える景色も全然違ってきませんか。村上春樹さんがいつも「僕」のように。そんな言語って日本語しかないですよね。たった一つの言葉の印象で、世界観を全く異なる軸へ変えてしまう。素晴らしい言語だなっていつも感動するんです。

栗栖 英語にすると、全て「I」になってしまう。日本語では存在していた繊細な情報が、削り取られてしまいますね。日本語は、言葉が持つ力や世界観というのが、他の言語に比べると非常に広い。言霊という感覚も、まさに日本らしい。

谷本 これから表現というものが重要視される時代に入りました。今までどちらかと言えば欧米の言葉というのがルールになってきて、例えば、私たちは何も考えずに「イノベーション」という言葉を使っていたりしますよね。けれども、日本のDNAだったり細胞がその意味合いを理解できていない、浸透してこない。上っ面にしか理解できていなかったと思うんですよ。それが、ここ数十年、日本が経済で勝てなかった理由の一つでもあるような気がしています。日本の響きだったり表現を大事に、魂レベルで理解できる日本語特有の言語を使い、日本独自の発想を持って、新しいルールや、言語体系を作っていくということをこの新しい時代に私たちはしていかなければならないのかもしれません。

栗栖 KAORIUMって日本だからこそ生まれてきたんだと思いますね。すごく今、実感しました。言葉に独特の力がある日本語、そして古来から大切にされてきた香りのバックグラウンドが合わさって生まれてきたのかなって。

谷本 本当にそうだと思います。発した言葉は、粒子のように空気に残り漂ったりするものですよね。そういったものだからこそ、美しいものを選ぶっていうことを私たちはしていかなければいけない。まさに香道のそれで、精神性みたいなものを研ぎ済ましていったときに、それをどう美しく表現するか、重要な修養の一つですよね。「新しい時代の美」とは何かという気づきは、言葉と香りの導きがあってこそだと思うんです。

栗栖 言葉と香りの導く「新しい時代の美」、か。すごく心に刺さる言葉ですね。

谷本 アトモスフィアみたいな感じというか、何か一つでは表せないですよね、きっと。いたるところの世界観が全て凝縮されているのが香りなんでしょうね。素敵ですね、これからがとても楽しみです。

プロフィール

谷本 有香

Forbes JAPAN副編集長
チーフコミュニケーションディレクター

証券会社、Bloomberg TVで金融経済アンカーを務めた後、2004年に米国でMBAを取得。その後、日経CNBCキャスター、同社初の女性コメンテーターとして従事。これまでに、トニー・ブレア元英首相、ハワード・シュルツ スターバックス会長兼CEOをはじめ、3000人を超える世界のVIPにインタビューした実績をもつ。また、現在、MX「モーニングCROSS」のレギュラーコメンテーターはじめ、多数のテレビ番組に出演。政府系スタートアップコンテストやオープンイノベーション大賞の審査員、ロイヤルハウジンググループ上席執行役員等、企業役員・アドバイザーとしても活動。

オフィシャルweb: http://www.yukatanimoto.com/

栗栖 俊治

SCENTMATIC株式会社 代表取締役

慶応義塾大学大学院を卒業後、NTTドコモにて10年間、携帯電話やスマートフォン向け新サービス・新機能の企画開発に従事し、iコンシェル、しゃべってコンシェル、音声認識機能、GPS機能等のプロジェクトリーダーを担当。
「最高のUXづくり」を徹底して目指した「しゃべってコンシェル」ではグッドデザイン賞ベスト100・未来づくりデザイン賞を受賞。
2015年より3年間、NTTドコモ・ベンチャーズ シリコンバレー支店へ出向。数々のシリコンバレースタートアップを発掘し、NTTドコモ本社事業部門とスタートアップとの協業実現や出資に成功。
2018年、日本へ帰国。2019年11月 SCENTMATIC株式会社を立ち上げ、現在に至る。

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