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2020/04/24

【KAORIUM JOURNAL #01】香りと言葉の化学反応!KAORIUMが目指す体験が生み出す新しい社会

「香りと言葉」が導く超感覚を追求する KAORIUM JOURNAL。セントマティック代表 栗栖 俊治が、香り × 言葉がもたらす未来について様々なスペシャリストと対談しその様子をお届けします。

これまで香りについては、「消臭・脱臭」といった、ネガティブな香りを消す側面ばかりが注目されてきました。しかし、香りの持つポテンシャルはそれだけではありません。SCENTMATIC株式会社(以下「セントマティック」)が開発した香りと言葉を相互に変換するAI型システム「KAORIUM(カオリウム)」は体験を通して感性教育、飲食体験、購買体験など様々な分野に新しいビジネスチャンスを生み、そして消費者のQOL(Quality Of Life:クオリティオブライフ、生活の質)を上げる可能性があります。香りの持つ効能や、香りと言葉が結びつくことで起こる化学反応を、セントマティックと共同研究を開始した国立大学法人東京大学 農学生命科学研究科 東原 和成教授との対談より掘り下げていきます。

共同研究のきっかけ

栗栖 「世界にあふれる香りを日々の豊かさとして感じられる未来づくり」を掲げ、香りを用いた事業に取り組み始めたときのテーマはふたつあって、ひとつは香りがもたらす情動的な価値についてリサーチしていくこと、もうひとつは香りをよりわかりやすく体験できるようにすることでした。ひとつ目の情動的な価値のリサーチのため東原先生の研究室のドアを叩かせていただきました。

東原 僕は2019年4月からJSTの未来社会創造プロジェクトで、香りをいかに人間社会に有効活用していくか、しかも消臭や脱臭などネガティブな香りの対策ではなく、香りの力をポジティブに使って、基礎研究から社会実装へ結びつけるプロジェクトを立ち上げていました。その目的へのアウトプットが、栗栖さんの持ってきたビジョンや方向性と一致したのが共同研究の経緯ですね。

「香りの新たな社会的価値」を科学する

東原 実は、五感をまんべんなくフルにQOLに使っているのは、人間だけなんです。イルカや鯨は聴覚、ネズミは嗅覚といったふうに、ほかの動物は一部の感覚が特に発達しているもの。人間の感性は五感の入力をバランスよく使うことによって育まれますし、だからこそ人間の生活は豊かなんです。その内の一つ、嗅覚だけがまだよく分かっていない。遅れているからこそビジネスチャンスがあるのですが、課題なのは、香りは遺伝や経験による個人差が非常に大きく、一人ひとり感じ方が違うということ。それから、香りは視覚や聴覚に比べて制御するのが難しいということです。あと、香りの効果はサイエンティフィックなベースでエビデンスがくっついてこない。例えば、アロマテラピーはメカニズムがわからないから医療にならないわけで、そういう問題をきちんと解決しなくては世の中の人たちは受け入れてくれません。

栗栖 一人ひとり感じ方が違う香りをよりわかりやすく体験できるようにするために開発したのが、KAORIUMです。体験をすることによって新しい価値やニーズがうまれてくることがコアコンセプトでして、体験をした時の感じ方によって、「より良くなった」や「こう使える、ああ使える」といったニーズが出てくると思っています。現在KAORIUMを活用した感性教育向けツール、飲食体験向けツール、小売実店舗向け購買体験ツールの開発を進めていて、実際に使った時に、飲食体験で言うと「今までの日本酒の味わい方が変わった」など商品を選ぶ時の納得感や満足感に繋がるように社会実装していきたい。そのためにKAORIUMがもたらす社会的価値を科学的視点から検証できることを期待しています。

東原 香りと言葉を結びつけることで、曖昧な香りを明確に形づけられるような香りのラベリング効果のあるKAORIUMは体験をベースとした非常に斬新な切り口なので、我々としても、利用者に及ぼす影響について、脳で何が起きて、その人の何が変わっているのか、心理・生理・脳活動計測の手法を用いてサイエンティフィックなエビデンスを付けることができれば、香りの持つ力を人間のために使えるようなビジョンを描けるのではないかと思います。

香りと言葉との結びつきによる「香りの軸」

東原 香りを表現する言葉は乏しいのですが、KAORIUMは、香りと言葉を結びつけることで、すごく曖昧でモヤモヤしていた香りについて、素直に生まれてくる言葉や感覚を形作っていくプロセスにあるので、すっきり感じられたり明確になっていくのだと思います。今後AIの精度もさらに向上して、自分のなかの香りの世界が広がるようなものになるはず。どう進化していくか非常に楽しみです。

栗栖 ありがとうございます。KAORIUMを体験した人からは「不思議な感覚だった」という感想もあるんです。

東原 KAORIUMを体験した人はソムリエに近い現象が起きてるんじゃないかな。例えばワインを嗅いだとき、ソムリエと一般人では脳の活動が全然違うんですよ。我々が普段ぱっと香りを嗅いだときって、情動の変化はあるにせよ具体的な言葉が出てくることはないと思うんですよね。でもKAORIUMはいろいろな香りを感性で表現した言葉に変換します。ソムリエが香りを嗅いで「これはエレガントな香り」「これは白い花」といった言葉が出てくるときと近い感覚になるんじゃないでしょうか。

栗栖 そこがまた面白いですよね。KAORIUMは、今まで好き嫌いだけで判断されてきた香りに対し、それだけではない新しい体験価値を作っていると思うんです。

東原 多くの人は香りに対して無意識なんですよね。「おいしい」って意識してもその香りが何なのかは考えません。でもKAORIUMによって香りが言葉と結び付けば、無意識から意識にあがるので、香りをより意識しやすくなると思うんです。そうすれば食事ももっとおいしく感じられるだろうし、なぜおいしいのかが体に記憶されていくので、食生活がさらに豊かになっていくと思います。

栗栖 香りの記憶に言葉が入ってくると、自分の中で香りの選び方や感じ方の「軸」ができるってことだと思っています。そうすると、今までこれだけが好きだったけど、こっちも好きだなというような、消費の幅の広がりも起こせるんじゃないかと思うんです。

東原 香りを記憶するためには他の五感のシグナルや体験との結びつきが必要です。KAORIUMは言葉と結びつけて表現できてるので軸ができるんだと思います。

子どもの想像力を育む香りの教育

東原 最近は嗅覚を使わないコミュニケーションが増えていますよね。インターネットでは香りをシェアできない。そうなってくると、我々の感性も変わってくるかもしれません。

栗栖 その分、リアルで会ったときに嗅覚がより力を増すようなことはないのでしょうか?

東原 そういう嗅覚の感性を維持していれば良いですけど、子どもから大人になるときに感性が育まれないと、なければないでよくなっちゃうんです。子どもはみんな香りの感性を持っていて、小学校半ばまでは“汗”や“ウンコの匂い”も好きなんですよ。でもだんだん周りや親の影響で香りに対する価値観を覚えていき、香りを取り除くほうにいってしまう。今はただでさえ世の中に香りが少なくなっていますからね。昔はバキュームカーも普通に走っていたし。

栗栖 今年の3月13日に子ども向けのオンラインによる香りの感性教育プログラムを開催したら、すごく好評だったんです。今は、香りの価値観の違いを共有して違いを楽しむための子ども用のプログラムを作っているのですが、子ども側の主体性を発揮させる作りにしていて、香りに対してどう感じたかをクエスチョン形式で引き出すアプローチでやっています。子供でもこんなに情景が目に浮かぶような、想像力にあふれる表現が作れるのだなと。子供たちの発想がすごく膨らむんですよね。

東原 想像力を育むのに非常にヘルプフルになると思いますね。これからはAI社会ですけど、AIにないのは想像力と課題解決能力と言われています。結局、そこが伸びなければ、AIができることをできるようになってもしょうがない。感じた香りをどう表現できるか、そういった力を求められる未来にKAORIUMは有効に働くかもしれません。

未来の香りの可能性

東原 我々が未来社会創造プロジェクトで目指しているのは、適切なときに適切な香りを提供しつつ、ほかの人にはなるべく影響を与えないこと。その香りが好きな人もいれば嫌な人もいますから。一番良いのは、例えば腕時計のようなものでその人の体調をモニタリングしつつ、その人の価値観や性格を加味したうえで、ある香りがぽっと出ること。その人が緊張してるなっていうときは、それを察してリラックスする香りが出るような、パーソナライズな香りのサービスができるようになるんじゃないかなと思いますね。あと、香りを色で表現する研究も進めています。

栗栖 香りを色で? 詳しくお伺いしてもいいですか?

東原 ある香りを嗅いだとき「この香りはどういう色ですか」と尋ねるアンケートを走らせているんです。柑橘系だと黄色やオレンジの人が多いですね。バニラの香りは茶色っぽかったりと、香りによって色のイメージがあります。

栗栖 色のイメージは蓄積された知識や経験から来るものが多いんですか?

東原 そういう場合もあるし、そうじゃない場合もあります。例えばバナナの香りを嗅がせたらみんな黄色にするんですけど、食べ物と結びついていないものに関しては香りによって違っていきます。

栗栖 なるほど……。質問の方向性がちょっと変わるんですけど、香り自体をビジュアル化していくことは可能なんでしょうか?

東原 それは難しいかな。でも、その香りによって生じる脳活動から、どんな香りを感じているとかはわかるようになってくると思いますね。逆に、この香りだったらこういう活動が生じるんじゃないかなということも予測できるようになると思います。それができるようになると、視覚や聴覚でできているようなVRが嗅覚でできるようになる。あるいは、消費者の香りに対する感じ方を予測できるようになると思います。

栗栖 それはすごいですね!

人生を豊かにするポジティブな香りを目指して

栗栖 KAORIUMにより、例えば、酒屋や飲食店で何十種類も並んでいて選ぶことが難しい日本酒のようなものの購買体験や飲食体験が全く違うものになっていき、KAORIUMがない店舗だと「何を選んだらいいのかわからない」くらいに浸透していってほしいと思っています。

東原 その人が今求めている香りを提供することは可能かと思います。
本来「飲んでみないとわからない」「試してみないとわからない」というものを、的確に提供することもできるようになるかと思います。しかし、一方気をつけないといけないことは、視覚や聴覚でも同じことが起きていますが、インターネットなどで自分の好みのものをどんどん提案してくれるようなパーソナライズのサービスが増えてきています。それがむしろその人の世界を狭めてしまっているように思えます。本来であれば受け入れられないようなものを試してみること、そして受け入れ、咀嚼してみることは人間の成長につながりますよね。いずれ、香りが個人にマッチングにするものを提供できる時代になる一方で「これも試してみない?」という幅を広げられるようなことが同時にできるようになるとより良くなる。

栗栖 セレンディピティの創出ですね。「興味関心を持ったその先」の出会いの場を作ることが大事ですよね。

東原 その通りです。人をより豊かにするためにいかに幅を広げていけるかが我々の目指すところですね。

栗栖 以前NTTドコモでサービス企画をやっていたときに、利便性を提供するサービス作りの価値についてずっと考えてきました。利便性の価値って一言で言えば、ネガティブな時間や気持ちをニュートラルにするということだと思ったんですよね。例えば家事代行サービスって、面倒臭い家事を他の人にやってもらうことによって、自分で家事をしていた1時間がなくなる。つまり、ネガティブをニュートラルにするのが利便性です。

東原 今、企業が消臭剤をどんどん売り込んでいますけど、香りをネガティブに消すだけでなくて、香りに関して逆にポジティブにQOLを上げる方向に変わっていってほしい。

栗栖 豊かさとは何かを考えると、うれしいとか気持ちいいとか楽しいとか、ポジティブな時間の割合が人生に増えることなのかと思います。利便性だけではニュートラルな時間が増えるだけで、人は豊かにならないと考えたとき「なくてもいいんだけど、あることによってポジティブになるもの」、洗剤に香りがついたらお皿洗いの面倒臭さが減って少し楽しくなったというように、今まで香りが付けれなかった、例えば小説とか他サービスや日用品でないプロダクトなどに言葉を介して香りがつくようなものが生まれてくると思ってます。
KAORIUMはそういったものを実現するためのひとつの切り口として生み出しました。今後、いろいろな分野の方々とチームを組んで、「こういう風に使える」「もっと面白いことできる」というアイデアをうみだしていただきたいです。

プロフィール

東原 和成

東京大学大学院 農学生命科学研究科 応用生命化学専攻
生物化学研究室 教授

1989年、東京大学農学部農芸化学科卒業。1993年にニューヨーク州立大学Stony Brook校化学科博士課程修了(Glenn D. Prestwich教授, Ph.D. in Biological Chemistry)。1993年8月より、デューク大学医学部博士研究員(Robert J. Lefkowitz教授)を務め、1995年10月より東京大学医学部脳研究施設神経生化学部門助手となる。1998年から神戸大学バイオシグナル研究センター助手を経たのち、1999年より東京大学大学院 新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻 助教授、2009年より現職。
2012年から2018年までERATO東原化学感覚シグナルプロジェクト研究総括兼任、2013年から2016年まで中国浙江大学客座教授を兼任。
2019年より東京大学総長補佐を務める。

栗栖 俊治

SCENTMATIC株式会社 代表取締役

慶応義塾大学大学院を卒業後、NTTドコモにて10年間、携帯電話やスマートフォン向け新サービス・新機能の企画開発に従事し、iコンシェル、しゃべってコンシェル、音声認識機能、GPS機能等のプロジェクトリーダーを担当。
「最高のUXづくり」を徹底して目指した「しゃべってコンシェル」ではグッドデザイン賞ベスト100・未来づくりデザイン賞を受賞。
2015年より3年間、NTTドコモ・ベンチャーズ シリコンバレー支店へ出向。数々のシリコンバレースタートアップを発掘し、NTTドコモ本社事業部門とスタートアップとの協業実現や出資に成功。
2018年、日本へ帰国。2019年11月 SCENTMATIC株式会社を立ち上げ、現在に至る。

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